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特集

映画「あなたへ」斉藤善宏プロデューサーインタビュー

2012年8月25日劇場公開の映画「あなたへ」のプロデューサー 東宝株式会社 佐藤善宏氏に、映画について、そして生きている間に伝えきれなかった想いを残す“手紙”、その独特の力について伺いました。

聞き手:(株)ドウゾ  棚田

あらすじ

北陸のある刑務所の指導技官・倉島英二(高倉健)のもとに、ある日、亡き妻・洋子が残した2枚の絵手紙が届く。1枚には「故郷の海を訪れ、散骨して欲しい」、もう1枚は洋子の故郷にある郵便局への局留め郵便だった。妻の真意を知るため、英二は旅の途中で多くの人々と心を通わせながら、妻の故郷である長崎県平戸市を目指す。最後に彼に届いた妻の本当の思いとは――。


亡くなった妻から届いた手紙。最後に妻が伝えたかった想いとは…。
『生きるってせつないね、が高倉さんの最初のひとことでした』

亡くなった妻から届いた手紙。最後に妻が伝えたかった想いとは…。『生きるってせつないね、が高倉さんの最初のひとことでした』
棚田:
映画「あなたへ」は主人公の亡き妻が残した手紙が物語の鍵となりますが、この映画自体も故 市古聖智さんの遺志を継いで製作されたと伺っています。
佐藤:
2008年に亡くなられた市古聖智プロデューサー/映画監督は映画「あ・うん」「夜叉」のプロデュースも手掛けた方です。映画「あなたへ」のカメラマン林淳一郎さんが遺稿を整理されていた時に、市古さんが長年温めてこられた高倉健さん主役の企画メモを発見し、降旗康男監督へとお話が行き、今回の映画製作、本格的な物語づくりが始まりました。
棚田:
最初から高倉健さんありきのお話だったんですね。
佐藤:
高倉さんというと、北のイメージ、一筋に耐えて生きる(動かない)男というイメージが一つあると思うのですが、監督、脚本家を中心に話し合うなかで、80歳になられた高倉さんには南へ向かって移動する、変わっていく主人公像を演じていただきたいと、今回のロードムービーの形が固まっていきました。
棚田:
高倉さんは6年ぶりの映画出演とのことですが、最初に脚本を読まれた時には?
佐藤:
(高倉さんが)最初に仰ったのが「生きるってせつないね」と。 でも“せつない”は必ずしも後ろ向きの意味ではない。人との出会いには喜びだけじゃなく悲しみもあるけれども、その全てに触れることで人は前に進んで生きていく。そんな事を“せつない”と表現されたのかなと。

人生を変える人との出会い
『映画の力って何だと思う?と毎日のように質問されました』

棚田:
映画「あなたへ」では、高倉さん以外にも主役級のキャストの皆さんが数多く出演され、様々な背景を持った人物として主人公とかかわっていきます。
佐藤:
私たち誰もが普通に何かしら問題や事情を抱えながら、そして何気ない日常生活でかけがえのない大切な思い出を重ねながら生きています。映画では、主人公と田中裕子さん演じる妻 洋子との生活、他の登場人物たちとの出会いや出来事も、普通の人が普通の生活をしている風景として描くことが大切だと感じていました。例えば、英二がキャンピングカーで律儀に妻のレシピどおり—これも残された手紙ですよね—-ヒジキ煮を料理する何気ないエピソードがありますが、何かジンとする好きなシーンの一つです。
棚田:
妻が残した手紙が主人公を動かし、そして英二と出会った人々もまた変わっていきます。
佐藤:
映画をご覧になった方は、英二とかかわった人々が「各々に一歩人生を踏み出していくのだろう」と先を想像いただけるのではないでしょうか。草なぎ剛さん演じるイカめしの営業マンである田宮と英二の最終カットも、そんな余韻を残す印象的なシーンです。
棚田:
ビートたけしさんが演じる元国語教師の杉野も大変重要な役柄でしたね。
佐藤:
高倉さんとたけしさんが2人でいるとそれだけで存在感があり、雑談風景もつい見入ってしまい、自分も映画少年の気持ちに戻ってしまいました。
杉野は英二と短い時間一緒に旅するなかで、旅と放浪の違い、今までとは違う生き方があることを英二に教えます。杉野が映画の中でつぶやく種田山頭火の句は、主に監督や脚本家が選んだものですが、本当にたくさんの作品があり、私も一生懸命読みましたが大変でした!
人生を変える人との出会い『映画の力って何だと思う?と毎日のように質問されました』
棚田:
登場人物と同様に、今回の映画は佐藤さんにも何か変化をもたらしましたか?
佐藤:
私は東宝に2001年に入社して、もちろん高倉健さんの名前は存じ上げていましたが、たまたま高倉さんとは同郷で隣町出身という共通項はあるものの、自分の映画人生で触れ合うことはできない方だと思っていました。
この映画を通じて一番印象にあるのは、毎日のように高倉さんが「映画の力ってなんだろう?」とお聞きになっていたことです。高倉さんは日本映画だけでなくハリウッド映画にも出演された大スター、誰よりも映画の影響力を実感されているはずです。今は自分も答えられません。しかし高倉さんがずっと自問自答される姿から、改めて「映画の力とは何か?」を考え続けることが大切だと勉強させていただきました。それが僕にとって一番大きい、これからの作品に携わる心構えが変わる出会いになったと思います。
棚田:
高倉さんが一人でも多くの若いスタッフに知って欲しいと仰っていた降旗康男監督とも、初めてのお仕事だったそうですね。
佐藤:
降旗監督はああしなさい、こうしなさいと細かく指示される方ではないですが、ちょっとでも片手間で仕事しているとすぐ見抜かれてしまいます。そしてスタッフやキャストによる最大限の努力が結実し、監督のイメージにあった瞬間を切り取られます。まさに職人だと感銘を受けました。

手紙が持つチカラ
『手紙は手間がかかる、相手を想う時間をかける分、想いが行間に伝わる』

手紙が持つチカラ『手紙は手間がかかる、相手を想う時間をかける分、想いが行間に伝わる』
棚田:
映画公開を記念して「あなたへ」贈る“感謝の手紙”キャンペーンも展開されましたね。映画では妻から夫へ想いを伝える設定ですが、キャンペーンサイトを拝見すると、親から子へ、子から親へ、本当に様々な「あなたへ」の想いがあると実感しました。
佐藤:
皆さんの手紙を読ませていただいて泣かされましたね。手紙の場合、文字にすることで改めて自分の気持ちが固まるというか、自分が本当はこう思ってたんだ、こんな記憶が自分の中に残ってたんだと、それを再確認することができる。そういう想いがこもった手紙は、本当に力を持っているなと改めて感じました。
棚田:
投稿されたたくさんの手紙を拝見すると、誰にでも必ず思い当る「あなたへ」の想いが出てくるのではないでしょうか。
佐藤:
そう思っていただけると、とてもありがたいなと思います。
もともと高倉さんもとても手紙がお好きで、メッセージカードを持ち歩かれて、ちょっとした感謝の言葉をよく書かれます。絵手紙キャンペーンにもコメントを寄せていただきました。「手紙は手間がかかる、つまり相手の人を想う時間が出来る。その時間から出てきた想いを伝えることが大事なことだ」と。手紙では何故か嘘をつきにくいとも仰っていました。手紙というのは、普段は出てこない本当の相手への想いが、相手を考える時間をかけることで行間から出てくるものなのかなと思います。
棚田:
実は私たちが「保険と一緒に残す手紙」というサービスを開発したキッカケも、1枚の手紙です。1987年の日航機墜落事故の折に亡くなられる直前に殴り書きのような手紙を残された方がいたそうです。十数年たってご家族が「この手紙があったから今までも、そしてこれからも生きていける」と仰っている映像を拝見し、残されたご家族が前向きに生きていくために“愛する家族への想いを残す”習慣みたいなものが創れないかと考えたのが始まりでした。
佐藤:
今まで何か文章で残すというと遺言、財産の相続配分が目的でしたからね。そうじゃない大切な人に伝えておきたい想いってきっとたくさんありますよね。それで残された家族の人生が変わっても変わらなくてもいい、でも必ず一緒に生きてきてよかったと思える。前に一歩踏み出す力となりますよね。 この映画が、 “家族へ想いを残しておこう”と思えるきっかけのひとつにもなるといいですね。

取材: 2012年8月20日
取材協力/記事 : ロックホッパー 大谷真奈美

映画「あなたへ」

監督:
降旗康男
脚本:
青島 武
企画:
市古聖智
林淳一郎
主演:
高倉健

全国東宝系にて
2012年8月公開
「あなたへ」公式サイト

プロデューサー

佐藤善宏
(さとう・よしひろ)

2001年東宝入社。映画企画部所属。テレビ「パズル」「マイガール」、
映画「犯人に告ぐ」「ROOKIES-卒業-」などを担当。

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